海外よりお届け~ 愛のプラクティカル・パッケージ Vol.2

デコラティヴなだけでなく、実用的で受け取り手に生産者の愛と思い入れを届けるパッケージ・デザインを欧州在住 の岬 次馬が分析、レポートいたします。
Writer: GIMA MISAKI
URL: www.gima-misaki.com
2019年春夏のパッケージ・トレンド分析
ナチュラル「デッサン」・「水彩画」イラスト台頭 
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「BIO」・オーガニック食品のトレンドと連動か

ここ数年の欧州の食品パッケージ・トレンドは「ナチュラル」・「体に良いBIO」のイメージを前面に押し出したものだ。「BIO」と表記して「ビオ」と読むが、写真のマークのABの意味は「Agriculture Biologique(仏語)」の略。

この有機農産物認定マーク、「ABマーク」のついている食品はフランス政府認定機関のお墨付き、「有機農業」で作られた安心の「有機 (Organic)/オーガニック食品」ということになる。

オーストリア、ドイツ、スイス、英国など諸外国で1950年代から有機農法が生まれていたが、フランスでは戦後の食料大量生産政策における土壌汚染、水質汚染に起因して、有機農法への取り組みが始まった。1970年代に着手されたものの、なかなか広がりを見せず、有機栽培に関する指針が1981年に制定された。

1985年から始まったフランス農務省の厳しい審査に合格後は、フランス有機農法発展機関の認定マーク(写真)を商品パッケージに記載することが義務付けられている。このマークはフランス国内のものとEU内外のもの、2種類ある。フランス国内のマークの方が審査が厳しい。

化学肥料や農薬不使用・遺伝子組換え作物(GMO)の禁止、加工食品の場合は原材料の95%がオーガニックであることなどに始まり、土壌から消費者の手に届くまでの厳しい規定が定められていて、抜き打ち検査もある。

フランスではこの10年でBIO認定農地は2倍以上、BIO農業従事者は1.5倍に増え、BIO食品専門のスーパーマーケットの各チェーンも、フランス全土で新店舗を拡大中、関係者の推計では、2017 年度 のフランスの有機市場は約 80 億ユーロと前年比 14%増で成長が著しい。(JETRO調べ)

普通のスーパーや郊外型スーパーでもBIOの売り場を確保、今やBIO食品はどこでも手に入るようになった。BIO食品は割高なのに人気、国内生産が追いつかず、輸入するフランス。安全で美味しい食品を求める現代の消費者のニーズと合致し、フランスのみならず、世界各国でまだまだ伸び続けるだろう。

 

「ロゴマーク」で安全・美味しさ・公平を証明。消費者購買のための目印に

当たり前だが「BIO」のマークは認定なしに使用不可、また自社で勝手にパッケージに「BIO」という文字やロゴをデザインして誇大広告表示するわけにはいかない。だが、パッケージのテーマカラーなどで、いかにも「自然で体に良い手作り食品」のイメージを作り出すことはできる。

クラフトペーパーのような素材に、鉛筆デッサン・水彩画イラスト、緑色や黄緑色などを効果的に使って、素朴なナチュラル・テイストのパッケージに仕上げる方法だ。だが、この「ABマーク」がついているだけで、ほぼデザインなしに近いごくシンプルなパッケージであっても、まるで「安全で美味しい証明」、「印籠」のような効果がある。似たようなものに、フェアトレードのマーク。


飾り気のないシンプルなデザインのスパイスの入ったコンテナ。下の二つの黄緑のロゴがBIOの規格を満たした商品につけられるマーク。


スーパーブランドのコーヒーの粉。向かって右下についている長方形のマークはフェア・トレードのマーク。

日本から輸出する商品について、(〜中略〜)手続きを踏まずに、商品名や包装資材に「Organic」と表示することは、たとえ日本で有機JASを取得していても違反行為になるので注意する必要がある。(JETRO 欧州における有機食品調査PDFより引用)

 

増える「手作り小ロット風のパッケージ」

たとえ大手の会社のファクトリー・メイドの商品であっても、手書きの素朴なイラスト・デッサンを使えば、なぜか商品の「工業製品」的なイメージが払拭される。消費者は経験上、「手作りは美味しい」・「添加物が少ない」と知っている。「日持ちしなくとも、気配りの上で製造された、全国展開されていない、地方の商品を口にしたい」というような「特別感」を求めるニーズに応えるのが「素朴な手作り感の出る手書きデッサン・水彩画イラスト風」を使ったパッケージ。上記のように「ナチュラル」・「素朴」・「小ロット風」は「健康に良い特別な商品」を想起させ、トレンドに敏感な消費者獲得に有効な手法だ。

 

「デッサン・水彩画イラスト風」は諸刃の刃か?

実はビジュアル的に「目立たない」・「押しが弱い」・「あまり有名でない」・「印象が薄い」・「記憶に残りにくい」と、たくさんマイナス・ポイントもあげられる手書きデッサン・水彩画イラスト風のパッケージ。それが現在、増加中の理由だが、「体に良さそう」・「優しい雰囲気」という一点でのトレンドとなっているようだ。

けばけばしいはっきりとした色・デザインのパッケージが通常多かった中で、「やんわりしている」・「優しい色使い」・「弱い線」・「田舎風」といった「目立つ」商品アピールとは逆のベクトルのパッケージが、むしろ「癒し」の要素が色濃い商品というイメージの想起に成功する。

消費者は毒々しい色彩の形の揃った「押し付けがましい」工業的な食品に飽きて、もっと特別に手をかけて作られた「健康に良い」・「自分たちだけが知る特別な商品」に、「繊細な気配り」を求め、珍しい新商品を試しているようだ。中身は「工業生産品」であっても、パッケージングで「素朴な、気持ちの行き届いた手作り風」に見せることも可能である。

 

他の商品との差別化の方法 ~ 癒される箱のデザイン

マイナスポイントが多いと思われる手書きデッサン・水彩画イラスト風。
では、他の類似商品とどう差別化を図るべきか。

イラストを「デザイン寄り」にするのか、「デッサン風」・「水彩画風」で押すのか。現在の主流はちょうど中間あたり、デッサンに近いような優しい線のものが多い。イラストを「デザイン」に近づけると、色や形がくっきりしたポップな印象になるが、同時に「工業製品の安っぽい雰囲気」が出やすい。そのためか、鉛筆デッサンに軽く水彩の色を合わせたパッケージが増えた。差別化を図る方法は、「パッケージの箱の形」や「商品全体の仕上がり」。

中身を見せるパッケージや、便利で持ち運びしやすい、購入しやすいパッケージなどがあげられる。また、箱を見ているだけで「かわいい」感じのするもの、箱を捨てずに別の用途に使うために、ずっと手元に置いておきたいものなども人気がある。その場合、デッザンのような線描画がでなく、かわいいくっきりとしたイラストのデザインのしっかりした素材の「スタンダードな箱」が多くなる。

飽きが来にくいという意味で、箱が何か別の用途に使える場合は、「鉛筆デッサン風」でなく、「スッキリとしたかわいい色使いのデザイン」の方に軍杯が上がりそうだ。

 

捨てやすいことを念頭に企画されたパッケージ

例えば、日本では比較的なじみが薄いと思われる、パーティ用ワイン、3 〜 5リットルの紙パック詰め。紙パックに注ぎやすいプラスティックの蛇口がついているこの商品形態は、野外でのパーティや旅行など、集まって大人数での食事の機会が多いこの国で、普及している。

ごく普通のスーパーで販売され、テーブルに乗せたらすぐに注げるスタンド付きカバーも売っている。移動中でも、ポケットに入れた氷でワインを冷やしておけるというアイデア。

通常、赤ワインは常温なので、冷やすのはロゼや白ワイン。もちろん長期保存や強度や味の点では、全てガラスのボトルの方に軍杯が上がる。

味や体裁を重視する年代層には敬遠されるが、便利で手軽、コストが安いことを最重視する若年層、質より量と考える飲酒機会が多めの家庭を中心に紙パックのワインは購入されている。新しい商品形態が新パッケージから生まれる良い例だ。

「ワインの紙パック詰め」はガラスボトルより風味は劣ると言われ、通常は避けられるものの、安価な紙パックのボックスワインはゴミ捨てが便利なため、野外の若者の気軽なパーティでは、よく見かける。手書きデッサン・水彩画風のイラストはワインのボトルにも普及。

手書きデッサンや水彩画風イラストはワインボトルのラベルにも。ボトルのネックの「bio!」と書かれた紙のポップはスーパーブランドのロゴ。ワインの世界にもBIOの波。箱のないワインのバラ売りに紙製のポップを作ってネックにつけるパターンが最近、激増した。

同じパターンでネックに毛糸の帽子のオマケをつけたフルーツ・ジュースの会社も。冬場の売り上げ減少時期、ボランティアが編んだ色とりどりのミニ帽子を商品に被せてセットにし、売り上げの一部を抗癌治療で髪の毛を失った子供たちを支援する団体へ寄付など。社会貢献を兼ねたイメージ・アップ戦略。

 

箱は必要か、否か。パッケージの意味

世界のパッケージ・トレンドは「エコ」に向かっているのは間違いない。
できるだけ、余分なパッケージはコストダウンの観点からも除きたいところだが、商品が消費者の手元に届いた時に、パッケージの破れ・中の商品の傷みや崩れ、水濡れなどがあったりするのは論外となる。輸送や陳列を考慮したパッケージが必要であるのは言うまでもないが、現在増えているのは、「実際の商品が小窓から見える箱入りパッケージ」だ。

消費者は中身を見て、商品の購入を決めたい。外箱の写真やイラストでは、十分でないと感じる消費者が増えた。箱の中身と、外側に印刷された商品写真の差異に敏感な人が増えた。サイズ、色、全体のイメージ。箱に商品写真を印刷するより、中身の「実物」をそのまま見せてしまう方が確実。

ここしばらく「イラストは手書き風デッサンや水彩画風」で「中身の見える食品パッケージ」がトレンドとなった。透明の小分け袋のままの袋でなく、箱が使われるのは「輸送」に耐えうるためと、光を遮断する効果。段ボールの中に詰められて潰れることを避け、輸送途中に外側の段ボールに光が当たっても、中の商品の温度上昇を防ぐ。

透明の小分け袋+シールのパッケージに比べれば、中身が一部見える箱+透明の小分けの袋のパッケージは商品保護も兼ねて、一石二鳥になる。逆に言えば、ごく小ロットのお菓子などを、店舗で作って、すぐに売る場合、箱は要らない。

 

箱なしパッケージでコストダウン可能なケースは?

水彩画風のイラストであれば、工業製品のお菓子でも、まるで手作りのように見えるマジック。中身の見える小窓が、「いかにも作りたて」を演出する。

ボール紙で底を作り、手作りのマドレーヌやクッキー、チョコレートやマシュマロなどを売るのは、パンやお菓子の小売店だ。そういう場合は、封入口を熱でシーリングした後、可愛いリボンを結び、シールを貼る。価格さえ、グラム単位で変わる。その場合、手書きの値段が貼られている。裏には製品についての原材料や賞味期限などの詳細が書かれたシールが貼ってある。

生産者が直接、消費者に商品を手渡せることができる場合、箱はなくても大丈夫。海外では過剰なパッケージは「エコ」の観点からできるだけ避ける。贈答品、すぐに食べないものは「箱入り」が良いが、日本ほどではない。

普通のパン屋にある手作りのお菓子を買った場合、その箱を入れる紙袋やビニール袋さえ用意がないことも普通。フレッシュな円形のタルトなどの生菓子の場合、大きな箱を受け取っても、そのサイズに見合った紙袋をもらえることは、よほど高級なパティスリーなら別かもしれないが、普通はない。

日曜の朝には薄い大きなタルトの入った箱を抱えて、歩いている人をよく見かける。また、高級チョコレートの量り売りは、一つ、二つのごく少量は透明の小分けの袋に入れてくれるので、店頭で選び、気軽に買える。買っても完全にゴミになるパッケージの場合、「スッキリ切り捨て」の状態。

フランスパンを買うと、筒型の細長い紙袋さえなしで、自分が持つ場所だけを、ペラリと小さな紙に持ち手だけを包む包装が一般的で、その合理性には驚かされる。日本との「清潔感覚」の違いを実感する瞬間が多いが、それは湿度が低い、食品が傷みにくい涼しい気候とも関係しているだろう。

フランスのパッケージはお洒落だが、同時に合理的、エコロジー、過剰な包装を省いたものが多いのは、自分用の商品の店頭での購入時。だが、実は普通の食品のパッケージも「簡素すぎる省略」が多々あることについて、時に驚く。見栄えが良く、商品が崩れない実利も兼ね、箱が底上げされ、中身が少ないこともある日本とは対照的だが、インターネット・ショッピングの増加で、日本のパッケージも過渡期を迎えている。

 

もしよろしければ、ご意見・ご感想・取り上げて欲しいテーマなどを、ぜひご自由にお寄せください。
次回をどうぞお楽しみに。

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