Writer: GIMA MISAKI
URL: www.gima-misaki.com
「Zen」テイストの「言葉のメッセージ」を載せたパッケージ
近年、欧州でよく見かけるのは東洋的な「Zen (禅)」テイストの商品。消費者に向けての「言葉のメッセージ」を商品に載せて届けるパターンのデザインが増えていた。本来の「禅」の意味と少し変わって「静寂」という意味、「努力して落ち着く『Keep calm』の意味」で「Zen」という言葉が使われている。
多くの活字は丸みを帯びた自由な手書き風。アクセサリー、雑貨、衣類。消費者が「言葉」を見て、思わずにして「気持ちをリセットできる」・「癒される」タイプの短い「Zen」キーワードがよく用いられた。商品デザインから少し遅れた形で、パッケージの世界にもその波が来た形だ。
写真は、イタリアの「nutella」。欧州で、知らない人はいないほど周知のブランド。主に朝食でパンに塗る、ココア入りのヘーゼルナッツ・スプレッドで、現在160カ国で販売している。
イタリア「nutella」のパッケージ
催事で使用される紙製の什器
抽選でエコバッグなどのプレゼントも。アンケートやギフトでメールアドレスなど顧客の情報を獲得する。
「Stay Calm(落ち着いて)」 や「Keep Cool(冷静に)」、「Smile(笑って!)」「Enjoy!(楽しんでね)」など、簡単な英語 は高頻出。しかし、その国の母国語でない限り、時に意味不明の文章や文法の間違いなどもある。日本で横文字の英語が外国語でカッコ良く見えるように、他国でも英語はロゴ的に頻繁に用いられる。
「○〇〇大好き!」というような、ごく単純でポジティブなメッセージ、「Sleep Well(ぐっすり寝て)」と他者を思いやるメッセージのほか、思わず頰が緩むユーモアやブラックジョークまで。
「LA VIE SANS LES AMIS.C’EST COMME UNE TARTINE SANS nutella.」
写真の商品の中の一瓶に記された上記の文の意味
「友達のいない人生。それはnutellaのないタルティーヌのようだ。」
タルティーヌというのは、朝にバターやジャムを塗って食べるパンの薄切り。誰もがその味を知っているからこそのジョーク。特に近年、健康についての意識が高まる中で、砂糖の量、カロリー、脂肪、その他、その商品の根源的な「存在論的に不利な側面」をパッケージで文字通りカバーするような戦略が用いられている。
「Zen」テイストの言葉のメッセージの次に来ているデザインの流行は、もっとシンプルな一単語を使ったデザイン。複雑なものから単純化する手法は、洗練を求め、常に辿る道。
写真は、復活祭の卵の形のチョコレートが入った紙パック。やはりメッセージ入り。「Keep Calm and ~ 」というフレーズをたくさん見かけるが、元々は第二次世界大戦前にイギリス政府が国民に当てた「Keep Calm and Carry on(平静を保ち、普段の生活を続けよ)」という政治的メッセージが元となっている。ポスターが再発見され、2005年頃からメディアに取り上げられて、社会現象となった。
特別な催事向けパッケージで、商品に飽きた顧客を取り戻せ
普段の従来パッケージでなく、「特別なZenバージョン」にラベル変更して、人目を惹く戦略。新たな顧客を呼ぶ目的と、飽きてしばらく食べてなかったが、また食べたいと思わせる「消費の欲求」を想起させるため、普段の見慣れたパッケージから特別パターンの「季節限定パッケージ」にする戦法は、既に有名になり過ぎているブランドによく見られる手法。あまりに有名だと、目が慣れてしまい、むしろ商品が目に止まりにくくなる。商品パッケージも、売り場の風景のように埋没し、他の商品に目移りして思わず他社の類似商品に手を伸ばそうとする顧客を、「パッケージの一時的変更で、顧客を馴染み深い自社に引き戻す」という効果がある。
目当ての商品を見つけられない顧客も逃さない工夫
売り場には、セールの催事としての「限定パッケージ」の棚が設けられ、「従来の普通の食品売り場」には「ごく普通の仕様の商品」が置いてあることが多い。「いつもの商品」を「いつもの場所」で買おうとしたら、お目当ての商品が一体どこにあるのか見当たらないから、別の商品を試そうかと考える「気の短い、浮動票になりがちな顧客」を逃さない手法。これらの手法は「すでに誰もがその味を知っている」老舗の食品ジャンルの商品、従来のパッケージも周知されて長い年月を経た、価格帯の安い商品に有効である。
トレンドを意識した「奇抜な限定パッケージ」の催事効果
もちろん古い保守派の自社商品のファンを逃さず、新しい顧客を取り込むために「目を惹く奇抜な、トレンドを意識した期間限定のZenパッケージ」を催事の棚に色鮮やかに並べることで、商品を知ってはいたが、買ったことはない潜在的購買層に向け、商品自体をポップ広告のように扱い、顧客の新規開拓を狙う。
パッケージに同時に多色を使用、多様なメッセージを載せることにより、商品が単にランダムに催事の棚にずらりと並べられただけで、消費者の目を惹きつける立派で派手な広告宣伝になる効果がもたらされている。
「価値観の再設定」で逃げた顧客に再アピール
時勢の流れで、消費者が「健康」を重視して食にこだわるようになった。カロリー、脂肪、砂糖の量、添加物、残留農薬。原材料の産地や減農薬、有機栽培かどうかにとどまらず、フェア・トレード、動物実験の有無なども含めて、気にする。もちろん、会社の伝統も重要、不祥事に対する対応もSNSで常に注目されるようになった。一人一人の消費者に気を抜けない。必ず、誠実・正直な企業でなければならない。広告宣伝のやり方、クレーム対応、自社従業員に対する処遇や社会貢献の度合いまでも全て含めた「企業姿勢」に敏感な顧客が「ごく普通」となった。健康のため砂糖の量や低カロリー重視を理由に「購入見送り」している場合、正攻法に「減らす」ということができる商品なら良いが、元からそれが絶対に不可能な商品はどうするか。
小売の現場では、トレンドの言葉を乗せたパッケージで「自社製品にまつわる価値観」を再設定して、売り込む手法がある。長い間に自然についてしまった時代遅れの「ネガティブなイメージ」をパッケージによって、今の時代の流れに合う「ポジティブなイメージ」を新しく植え付けて、消費者に再アピールする。もちろん、商品の中身がどの程度の材料比率なのかは、調べればすぐにわかるのだが、そこまで一つ一つ調べてまでも、吟味しない顧客にアピールが可能。また、たとえ多少、体に悪かろうと、時に甘いものが食べたい消費者は、目先のパッケージの変更が「免罪符」となって、購入欲を刺激される。
次回も引き続き「2019年の春夏のパッケージトレンド」について分析予定です。
お楽しみに。
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